学部

連携校との高校生向けのデータサイエンス教育についての共同研究の成果を発表

 データサイエンス教育研究センターは、2016年12月に滋賀県立虎姫高校(SSH:スーパーサイエンスハイスクール採択校)と高大連携協定を締結し、データサイエンス学部教員による授業カリキュラムの設計やデータ解析等の指導法の助言、データサイエンスをテーマとした探究学習プログラムへ協力しています。その中で、高校生向けのデータサイエンス教育について共同研究を進めています。

 滋賀県HPには、全国に先駆けて県全域での水害リスクを示した地先の安全度マップを公開しています。2017年8月の台風5号により滋賀県長浜市内を流れる姉川が氾濫し、滋賀県立虎姫高校の通学路の一部が閉鎖されました。そのような環境から滋賀県立虎姫高校の生徒や周辺住民は自然災害の減災に興味があります。

 そこで、滋賀大学データサイエンス学部の和泉志津恵教授は、畑山満則特別招聘教授(京都大学防災研究所)の協力を得て、地域防災データを活用したPBL(Project-based Learning、プロジェクトに基づく学習)演習の授業を設計しました。また、畑山満則特別招聘教授は、和泉志津恵教授の協力を得て、地先の安全度マップのための河川地形モデルの作成についての2日間の集中講義(ドローンによる河川地形の撮影を含む)を設計しました。滋賀県立虎姫高校へこれらの授業デザインおよび教材を提供し、防災の分野におけるデータサイエンス教育、特にデータに基づく統計的思考力の育成を支援し、虎姫高校との高校生向けのデータサイエンス教育についての共同研究が始まりました。

 滋賀県立虎姫高校は、2012年度にスーパーサイエンスハイスクールの指定を受け、2021年度まで継続中です。理系の2年次生徒を対象にしたデータに基づく探求活動を行う「究理Ⅱ データサイエンスコース」を2018年度から通年で開設しています。このコースでは、和泉志津恵教授らが設計した授業デザインを、虎姫高校の松宮敬広教諭が高校生版に改修したものを用いています。生徒らは、地域防災データと他の関連データを組み合わせ、EXCELでデータ加工や解析を行い、その結果から防災や減災について新たな気付きや解釈を生み出します。プロジェクト発表会(3月に実施)では、和泉志津恵教授や滋賀大学の学生が質疑応答に参加し、学校間の交流の場にもなっています。また、夏期には理系の2年次生徒の希望者を対象にして、地先の安全度マップのための河川地形モデルの作成についての2日間の集中講義とドローン実習を2018年度から畑山満則特別招聘教授と和泉志津恵教授が実施しています。生徒らは、実習で作成した画像データと、滋賀県が公表している地先の安全度マップのデータをGISで重ね合わせ、水害リスクについて議論します。この議論からも防災や減災について新たな気付きや解釈を生み出します。ドローンを用いた野外調査の実施にあたり、滋賀県土木交通部流域政策局、長浜市役所、長浜市大井自治会に協力いただき、高校生のデータサイエンス学習を温かい目で見守っていただいています。虎姫高校の生徒らは、滋賀大学との高大連携授業をとおして、身の回りにあるデータを意識する、異なる分野のデータの組み合わせを考える、解析方法の組み合わせを考える、データや解析結果の視覚化を工夫することを経験しました。また、虎姫高校の教員らも、新たな教育分野であるデータサイエンス教育を実践する経験を積み重ねました。

 共同研究の成果は、第 16 回 統計教育の方法論ワークショップ・理数系教員授業力向上研修会(東京)(2019年3月2日実践女子大学渋谷キャンパスにて開催)や第 19 回 統計教育の方法論ワークショップ・理数系教員授業力向上研修会(東京)(2022年3月18-19日オンライン開催)にて、和泉志津恵 教授、松宮敬広 教諭、畑山満則 特別招聘教授により報告されました。

 防災とデータサイエンスの専門家が直接、高校の教育現場に出向いてデータ駆動型の授業や実習を行うことや通年授業の支援を行うことは、滋賀大学や虎姫高校としても過去に例のない初の試みとなりました。データサイエンス教育の共同研究に発展したこの活動は、大学と高校と自治体の社会連携の一つのロールモデルとなるものです。滋賀大学では、地域の実課題に挑戦する実践的なデータサイエンス教育、高校などの教育機関との共同研究への参画、提案、データ活用の高度化によりデータサイエンスの社会実装に貢献していきます。

<参考サイト>

・県内高校(彦根東高校・虎姫高校)との高大連携協定を締結(2016年度)
https://www.shiga-u.ac.jp/2016/12/12/44901/

・滋賀県立虎姫高校「究理II データサイエンスコース」発表会にて講評(2018年度)
https://www.ds.shiga-u.ac.jp/dscenter_info/p4125/

・滋賀県立虎姫高校対象の本学サマーセミナーがメディアに取り上げられました(2019年8月3日)
https://www.ds.shiga-u.ac.jp/news-faculty/p4670/

・データサイエンス学部の和泉志津恵教授による実践教育が、@DIME(2020年6月3日付)に掲載されました
https://www.ds.shiga-u.ac.jp/news-faculty/p5206/

・第 16 回 統計教育の方法論ワークショップ・理数系教員授業力向上研修会(東京)
https://estat.sci.kagoshima-u.ac.jp/SESJSS/edu2019.html

・第 19 回 統計教育の方法論ワークショップ・理数系教員授業力向上研修会(東京)
https://estat.sci.kagoshima-u.ac.jp/SESJSS/edu2022.html

<参考文献>

和泉志津恵, 畑山満則, 松宮敬広.(2019)地域に根ざすデータサイエンス教育 -SDGsの展開-.「統計教育実践研究」 Jissen Women’s Educational Institute(JWEI)(Special Issue) 21-26.

松宮敬広, 和泉志津恵, 畑山満則.(2019)高校生のためのデータ駆動型の授業デザイン -防災エビデンスの探索-.「統計教育実践研究」 Jissen Women’s Educational Institute(JWEI)(Special Issue) 47-52.

松宮敬広, 和泉志津恵, 畑山満則.(2022)高校生のためのデータ駆動型の授業デザイン -地域の問題から気づきが生まれるデータサイエンス教育-.統計数理研究所共同研究レポート「統計教育実践研究」 14 2022年3月発行予定.