学部

データサイエンス学部生が医療データベースを用いた課題研究の2021年度成果を報告しました

 統計数理研究所医療健康データ科学研究センターとの連携・協力の一環として、和泉志津恵研究室の3年次・4年次のゼミ生18名が「大学生のための医療統計学」の教育プログラムに、2019年度および2020年度に続いて参加しました。このプログラムでは、大学生たちが身に着けた知識(統計検定2級程度)を実際に使い、Problem-Plan-Data-Analysis-Conclusion (PPDAC)サイクルをまわすことにより、医療統計学における課題解決に至るまでの過程を体験し、実践経験を積み重ねることを目的にしています。2021年度は彦根キャンパスでの対面授業に戻りましたが、ゲスト講義や成果報告会では対面授業と同時双方向型オンライン授業を併用しました。また、2020年度にこの教育プログラムに参加した学生たちの内4名が、2021年4月にデータサイエンス研究科に進学しました。

 理論の学習では、春学期の2021年4月8日(木)に、学生たちは博士課程後期の院生とともに統計家の行動基準について学び、医療統計家のためのワークショップ(2015年度統計関連学会連合大会 共同発表者 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 特任准教授 佐藤恵子氏、和泉志津恵)の教材を用いたグループ演習に参加しました。また、2021年4月22日(木)に伊藤陽一氏(北海道大学病院 医療・ヘルスサイエンス研究開発機構 データサイエンスセンター長  教授、前 医療健康データ科学研究センター長、医療健康データ科学研究センター 客員教員)および立森久照氏(慶應義塾大学 医学部 特任教授、医療健康データ科学研究センター 客員教員)によるゲスト講義が行われました。学生たちは、臨床研究のデザインと統計学、レセプトデータを用いた有害事象発現リスクの評価方法を学びました。また2021年5月6日(木)に佐藤俊哉氏(京都大学大学院医学研究科医療統計学分野 教授、医療健康データ科学研究センター 客員教員)によるゲスト講義が行われました。学生たちは、医療統計学は何か、「統計的有意性とP値に関するアメリカ統計学会声明」を学びました。また、2021年7月2日(金)に小山暢之氏(第一三共 株式会社)および徳山健斗氏(味の素 株式会社)によるゲスト講義が行われました。学生たちは、医学・薬学の研究における質的データ解析入門、「おいしさ」を科学する研究における回帰分析を学びました。

 次に秋学期では、2021年10月19日(火)に冨田哲治氏(県立広島大学 地域創生学部 教授)によるゲスト講義が行われました。学生たちは時間などの変数の値によって変化する係数を含む統計的モデル(変化係数モデル)の概要とその活用事例を学び、統計解析ソフトRのプログラミング演習に参加しました。また、2022年1月4日(火)と14日(金)に佐藤彰洋氏(横浜市立大学 データサイエンス学部 教授、一般社団法人世界メッシュ研究所 所長)によるゲスト講義が行われました。学生たちはMESHSTATSを使った統計的解析方法と活用事例を学び、統計情報可視化システムの MESHSTATSの演習に参加しました。

 応用の学習では、春学期に、統計数理研究所医療健康データ科学研究センターから提供された「母集団100万人の教育用医療データ」や滋賀大学が取得した「母集団100万人の教育用医療データ」を利用するために、学生たちは秘密保持誓約書に電子署名しました。この教育用データは、健康保険組合のレセプトデータ及び健診データの匿名加工された医療ビッグデータから抽出された実データです。また、学生たちは各自が用意したノートPCをデータサイエンス学部の専用サーバーにリモートデスクトップ接続して、教育用医療データをもとに医療データベースを構築しました。医療データベースから抽出した1万人のサンプルデータをもとに予備解析を行い、学生たちが独自の視点で取り組みたい課題の研究計画を立て、計画内容をブラッシュアップして、自身の研究計画を仕上げました。

 次に秋学期では、学生たちはデータベースソフトSQLiteや統計解析ソフトRを動かし、レセプトや特定検診などのテーブルデータを組み合わせ、自身の課題に合わせた作業データを加工し、統計的モデルや分割表を用いて変数間の関係性を調べました。中間発表やデータ分析レポートについて、鈴木太朗氏(滋賀大学データ教育研究センター 助教)に助言をいただき研究内容をブラッシュアップして、最終発表会へ臨みました。一方、和泉志津恵研究室の院生5名は、メンタルモデルとして後輩たちの主体的な学びを促しました。

 最後に、2021年12月14日(火)、16日(木)、21日(火)に、特別講義(コロナのため職場見学は中止)と成果報告会を行いました。特別講義では、中村 治雅氏(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院臨床研究・教育研修部門臨床研究支援部 部長)から医薬品の開発の流れを学びました。また、成果報告会では、学生たちが作成した課題研究の発表資料を事前に回覧し、質疑応答を含めた議論を行いました。この報告会では、松井茂之氏(統計数理研究所医療健康データ科学研究センター長)、伊藤氏、立森氏、小山氏、徳山氏、山本祐二氏(滋賀大学保健管理センター 所長、教授)、池之上辰義氏(滋賀大学データ教育研究センター 講師)に、学生独自の視点で取り組んだ課題研究について助言をいただきました。また、教育プログラムのアドバイザーによる審査の結果、「高脂血症患者のメバロチンの処方」(3年生 高田 真帆さん)と「2型糖尿病患者に対する成分名グリメピリド処方の実態調査」(4年生 山根早紀さん)とに2021年度最優秀賞が授与されました。

 今後も、データサイエンス学部は、医療データを用いた教育プログラムを通じて、データサイエンス分野の人材を育成してまいります。末尾になりましたが、統計数理研究所医療健康データ科学研究センター、ゲスト講師の方々、成果報告会の参加者の方々、株式会社地域科学研究所、一般社団法人 陵水会から賜りましたご支援やご協力に深謝申し上げます。

<参考サイト>

・統計数理研究所と研究協力に関する協定(2016年10月)   https://www.shiga-u.ac.jp/2016/11/01/44098/

・医療データベースを用いた課題研究の成果報告(2019年度) https://www.ds.shiga-u.ac.jp/news-faculty/p5035/

・常に社会を意識!滋賀大学の実践教育(2020年6月)     https://dime.jp/genre/922316/ 

・医療データベースを用いた課題研究の成果報告(2020年度)   https://www.ds.shiga-u.ac.jp/news-faculty/p6070/

・和泉志津恵, 伊藤陽一, 立森久照.医療ビッグデータを活用したデータサイエンス教育 – 産学協働の取組み(2019年度)-

    第27回大学教育研究フォーラム(2021年3月)   http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/forum/2020/        

・学生による企業での成果発表: ①医療データベースを用いた課題研究の成果報告 「Data Science View」 Vol.5, P.38, 2021(2021年7月)  https://www.ds.shiga-u.ac.jp/dscenter/about/#report

・きらきらしがだい人 医療統計学 

    https://www.shiga-u.ac.jp/information/publish/info_publish_magazine/info_publish_magazine_backnumber/

・滋賀大学 広報誌「しがだい」, 54号, P.13, 2021(2021年10月)